三三国志 英雄図鑑
第1部 乱世の幕開け・184年

第1章黄巾の乱と桃園の誓い

黄巾の乱に揺れる漢の世。涿県で出会った劉備・関羽・張飛が、桃園で義兄弟の契りを結ぶ。

舞台:涿県・鉅鹿

後漢の末、天下は乱れに乱れていた。幼い皇帝が続き、宮中では宦官が権を握り、地方には飢えた民があふれる。そこに現れたのが、鉅鹿の道士・張角である。彼は「太平道」を唱えて病を癒し、またたく間に数十万の信徒を集めた。そして西暦一八四年、張角はついに旗を揚げる。「蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし」。黄色い頭巾を巻いた信徒たちが各地で蜂起し、世にいう黄巾の乱が始まった。

朝廷は慌てて義勇兵を募る高札を立てた。幽州は涿県、その高札の前で深くため息をついた男がいる。筵を織り草鞋を売って暮らす劉備、字は玄徳。漢の皇族の血を引くというが、いまは貧しい青年にすぎない。

「大丈夫たる者、国の危うきにため息ばかりとは情けない」。背後から雷のような声が飛んだ。振り向けば、豹のような頭に虎のひげ、燕のあごをした大男。土地の肉屋で酒屋の主人、張飛である。劉備が志を語ると、張飛は「俺の財産を投げ出して兵を集めよう」と即座に応じた。

二人が酒場で語らっていると、入り口に一人の偉丈夫が立った。身の丈九尺、長いひげ、棗のような赤ら顔に切れ長の目。関羽、字は雲長。故郷で悪人を斬って流浪の身となり、やはり義勇兵に加わろうとしていたという。三人は一目で互いの器を見抜いた。

翌日、張飛の屋敷の裏の桃園は花盛りであった。三人は黒牛と白馬を供え、天地に誓いを立てる。「われら、姓は異なれど兄弟の契りを結ぶ。生まれた日は違えど、同年同月同日に死なんことを願う。上は国家に報い、下は万民を安んぜん」。劉備を兄、関羽を次兄、張飛を末弟と定めた。これが後の世まで語り継がれる桃園の誓いである。

三人は馬商人から贈られた軍資金で武器を鍛えた。劉備は雌雄一対の双剣、関羽は重さ八十二斤の青龍偃月刀、張飛は一丈八尺の蛇矛。五百の若者を率いて、彼らは黄巾の群れに挑んでいく。初陣で張飛が敵将を一突きにし、関羽が一刀でもう一人を両断すると、黄巾兵は算を乱して逃げ散った。

同じころ、この乱を足がかりに頭角を現す者たちがいた。沛国の若き騎都尉・曹操は、黄巾を討って名を上げる。長沙の孫堅は、江東の精鋭を率いて南から駆けつけた。いずれも、やがて天下を三分する大樹の種である。

張角は病に倒れ、黄巾の主力はその年のうちに潰えた。しかし漢の屋台骨はすでに腐っている。乱は鎮まっても、乱世は始まったばかりであった。桃園の三兄弟はこの先、幾度もの流浪と別れをくぐりながら、誓いの言葉を胸に歩んでいく。

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