三三国志 英雄図鑑
第2部 群雄割拠・199年

第9章許田の巻狩りと衣帯の詔

巻狩りで曹操の専横を見た献帝は密詔を下す。劉備は曹操と英雄を論じたのち、許を脱出する。

舞台:許田・許・徐州

許の都では、曹操が帝を迎えて三年、その権勢は日ごとに増していた。献帝はもはや玉座の飾り物に過ぎない。西暦一九九年、曹操は帝を誘って許田で巻狩りを催した。劉備・関羽・張飛もこれに従う。

一頭の大鹿が走り出た。帝が三度射て当たらず、曹操が帝の弓を借りて射ると、一矢で仕留めた。群臣は「万歳」と叫んだ。帝に向けてである。ところが曹操は馬を進め、帝の前に出てその歓声を受けた。関羽は眉を逆立て、青龍刀に手をかけて馬を出そうとした。劉備が目で制する。「まだだ」。関羽は怒りを飲み込んだ。

その夜、献帝は忍び泣いた。「曹操はいつわれを殺しても不思議ではない」。帝は指を噛んで血で詔を書き、玉帯の裏地に縫い込んで、皇后の父・董承に下賜した。これが衣帯の詔である。

董承は信頼できる者を集めた。西涼の馬騰、そして劉備。劉備は血書を読み、涙を流して署名した。「漢室の末裔として、命に代えて」。だが誓約者はわずかで、曹操の耳目はどこにでもある。劉備は疑われぬよう、屋敷の裏庭で野菜を作って暮らし始めた。

ある日、曹操の使者が劉備を迎えに来た。「丞相がお呼びです」。曹操は庭で青梅をつまみに酒を温めていた。「使君は英雄をよく知っておられよう。いまの天下で誰が英雄か」。劉備は袁術、袁紹、劉表、孫策と次々に名を挙げたが、曹操はすべて笑い飛ばした。「英雄とは、大志を胸に秘め、天下を呑む気概を持つ者。いまの天下の英雄は、使君と、この操のみ」。

劉備は思わず箸を取り落とした。ちょうど雷鳴が轟く。劉備は身をかがめて箸を拾いながら言った。「雷の音に驚きまして」。曹操は笑った。「大丈夫が雷を恐れるとは」。この一瞬で、曹操の警戒は解けた。「青梅煮酒、英雄を論ず」として知られる名場面である。

曹操のもとにいては殺される。劉備は好機を待った。やがて袁術が玉璽を袁紹に送ろうと北上するという知らせが入る。劉備は進んで申し出た。「袁術を討つ役目、私にお任せを」。曹操は五万の兵を授けた。軍師の郭嘉と程昱が「龍を海に放つようなもの」と止めたが、追っ手は間に合わなかった。

袁術は皇帝を名乗って二年、贅沢と暴政で民に見放されていた。劉備の軍に敗れ、逃げる途中、「蜜の水が飲みたい」と言ったが、兵は「血の水ならある」と答えたという。袁術は血を吐いて死んだ。玉璽は曹操の手に渡った。

劉備は徐州に留まり、曹操に戻らなかった。翌年、董承の謀は漏れ、董承一族は皆殺しにされる。曹操は血書に劉備の名を見て激怒した。「大耳の賊め」。曹操と劉備、二人の英雄は、ついに袂を分かった。

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